程度の良い117クーペの、いわゆる中期型、量産前期モデルです。

1968年(S43)12月に発売された117クーペは、ご存知の通り、

・ジウジアーロのオリジナルデザインを忠実に再現するために手作業でボディパネルの成型がなされた"前期型","ハンドメイド"
・GMと提携後複雑なプレス成型が可能になり本格的な量産化・合理化がなされた"中期型","量産前期"
・角目4灯になり外装のみならず内装も大幅に変わり、排ガス規制にも漸次対応した"後期型","量産後期"

と大まかに３つの年代に分かれます。

そのオリジナリティと希少性から今も昔もハンドメイドが一番人気ではありますが、今となってはどの年代のモデルにも固定ファンが多く、際立って美しいスタイリングという共通した魅力をもとに、自分の趣向に合った年代のモデルが選ばれることが多い状況です。

中でも中期型はオリジナルの雰囲気が色濃くありつつハンドメイドとはまた違ったテイストも備え、生産台数的にタマ数が比較的多い分選択の自由度が高くもあるため、根強い人気があります。

●● プロフィール ●●

以前はフィアットリトモアバルト130TCに乗っていたりバイクに凝っていたオーナーさんは、かつてお父様が乗っており思い入れがあったとのことで、2009年(H21年)にこの117クーペを購入します。

その時の状態は、オールペン済みで、ハンドメイド用フェンダーミラーと、ハンドメイド用シートに雰囲気を近づけるためにおそらくルックスの似ている中期型用のビニールレザータイプに交換されており（本来中期型XEのシートはモケットタイプ）、ツーオーナーの無事故車という触れ込みでした。

もともと程度は良かったとのことですが、オーナーさん曰く「この117が好きすぎて」、購入以来コツコツと修理したり新品パーツを探しては奢ってを続け、現在の状態まで熟成させました。

オドメーターは22500km弱を指しており、購入時はおよそ70000km、おそらく実走122500kmだろうとのことですが、メーターが5ケタのため参考値とさせていただきます。

主に週末のドライブに使用していますが雨天はほぼ未使用、帰宅後は必ず丁寧に磨いてから屋根付きのスペースにカバーを掛けて保管しているとのことです。

●● コンディション（外装） ●●

ライトブルーメタリックが一目見てきれいなボディです。

ただ、実はミントコンディションというわけではなく、オールペンも仕上げは良好ですが全剥離というわけではありませんし、修復歴こそ無いようですが板金跡は左右フロントや右リアにも、と散見されます。
細かく見ると左右のドアエッジや左リアフェンダー、フロントグリル下にも小キズが見受けられます。
フロントガラスにごく小さい飛び石が1か所、ボンネット先端にも小さなサビ浮きがありました。

サビに関しては両側のドア下にも若干あり、それに対してサビ止めが塗られていますが、それは前のオーナーさんが施したもののようです。

しかしながら全体で見ると明らかに程度の良い117クーペなのがこのお車の妙で、それが成り立つのは隅々までオーナーさんのこだわりが行き渡っているからでしょう。

そのキモとなっているのは、メッキというメッキやステンレスのウインドウモール、プラスチック製のレンズ類、エンブレムのほとんどが色あせずに輝いている点に違いありません。

主な新品交換箇所は、

・ライトリム
・フェンダーミラー（ハンドメイド用）※購入時より交換してありましたが、現オーナーさんなってから新品に交換
・リアコンビランプ ※状態の良い中古
・サイドリフレクター
・フロントウインカー
・サイドウインカー
・グリルエンブレム
・ドアモール
・フロントドアゴムシール
・リアウインドゴムシール
・リアトランクエンブレム2種
・前後バンパー（再メッキ）

といったところです。

変えられるものは随時新品を購入・装着しているとのことですが、そこは当時の部品ですから耐久性は低く、管理が甘ければみるみる劣化してしまいます。

このお車は、そこがそうなっていません。

色あせ朽ちやすいポイントがことごとく光っているからこそ出る、この時代の車を所有したことがある者ならわかるオーラを感じます。

曰く「"程度の良い車を丁寧に使っている感"を大事にしている」とのことで、オーナーさんのその目論見は成功しているのではないでしょうか。

ちなみに、エンブレム類はサビ防止のため穴は全て埋め、外装用両面テープで取り付けているとのことです。

●● コンディション（内装） ●●

内装も同様に、とても良いコンディションが保たれています。というか、作られています。
作られているというのも変ですが、痛んでいるところで替えられるところは全て替えたうえで、適度に丁寧に使っているといった状態になっています。

先述のように中期型用ブラックビニールレザーのシートに交換されていますが、そのシートにもスレはありませんし、天井内張りも前のオーナーさんが張り替えたようで、タレも汚れも見当たりません。
ステアリングはややテカリがあるものの良好です。

また、トランク内も含めカーペットは全て張り替えられており、足元にはKAROのマットが敷かれています。
左右ドアとクォーターウインドウのウェザーストリップも交換済みです。

後付けの電装品はETCのみで、雰囲気が壊れるからとオーディオも当時モノのAM/FMラジオのままですが、その作動はOKです。

エアコンは外観は当時のままで、中身はコンプレッサー、エバポレーター、レシーバー、クーラーホースとほぼオーバーホールと言って差し支えないほど手を入れ、現在完調です。

メーター類も全てキレイで基本的に不調箇所はありませんが、唯一時計だけが最近不動になってしまったとのこと。
パワーウインドウはOKです。

ダッシュボードやブラジリアンローズウッドのパネルに割れはありませんが、リアのトノボード右側前方の肩部分に割れがあり、補修した跡があります。
また、助手席ドア内張りの下側にも若干のキズと補修跡があります。

以前は不明ながら現オーナーさんになってからの喫煙歴はありませんので、タバコの嫌な臭いやヤニ汚れとは無縁です。

何より、ホコリや汚れなどが感じられない清潔感のあるインテリアなのがポイント高いですね。

●● コンディション（機関） ●●

「117クーペに精通している信頼できるメカニックの方にすべての整備をお願いしていましたので現在不具合はありません。」とオーナーさんが自信を持って言い切ることができる、完調と言えるコンディションが維持されています。

こちらも例によって、コツコツと手が入れられています。
主な新品交換及びオーバーホール箇所は、

・ディストリビューター
・セルモーター
・オルタネーター
・燃料ポンプ
・ラジエーター（コア増し）
・ラジエーターホース
・リザーバータンク
・オーナーズクラブステンレスマフラー(5ZIGEN)
・ショックアブソーバー

といったところです。

加えて、ヘッドカバーは結晶塗装でリペイントされてるのがポイント高いですね。
バッテリーも2015年(H27)12月に交換されています。

記録簿・整備明細もオーナーさん購入以後のものはほぼ全て残っています。
それを見ると定期点検も含め年に2~3回は主治医に入庫させており、少しでも不調を感じたらマメにメンテに出していた様子がうかがえます。

●● インプレッション ●●

板金跡が幾つかあるとは一瞬思えない、というかよく見てもあまりわからない、一見して程度の良い外観です。
塗装は概ね良好、飛び石や小キズ、磨きキズなどもあまり感じられない状態の良さもさることながら、117クーペの大きな特徴である、半ポリッシュ半ヘアライン仕上げのステンレス製ウィンドウモールをはじめ、前後バンパーにライトリム、ハンドメイド用フェンダーミラーetc.が曇りなく輝き、樹脂製灯火類やエンブレムも艶やかに光り、程度の良さを印象付けます。

反面、足元を飾るカンパニョーロのエレクトロン101はキズも汚れも多少はあるコンディションですが、それはそれで現役感があって悪くありません。

室内に入ると目に飛び込んでくるのはやはりブラックのビニールレザーシートです。XE標準のモケットシートも良いですが、この車のインテリアに一番似合うのはブラックレザーなんだなと思わされます。

３本スポークステアリングと時計を含めた7連メーターがいかにもGTらしい雰囲気で気持ちが盛り上がると同時に、キズや割れ、汚れなどが見当たらないインパネに清々しさも感じます。

リアシートの居住性もまずまず、頭はさすがに少々支えてしまいますが、外寸とスタイリングからは想像つかないくらいゆとりがあり、美しさとパッケージを両立させるジウジアーロの職人仕事を思わずにはいられません。

電子制御インジェクションですのでイグニッションONで一触即発、キャブ車のように気難しいところがなく安定したアイドリングを始めます。

助手席にて試乗させていただきました。エンジン自体はスムーズでレスポンスも良好ですが、落ち着いたキャラクターと言いますか、エンジンが積極的に回りたがるタイプではなく、トゲがないだけに粛々とクルージングするのに適した性格なことがうかがえます。
その意味からも、117クーペはこのお車のようにATの方が相性がいいのかもしれません。

その美しい外観から想像するよりダンピングはやや固めで、リアサスがリーフリジッドなだけに荒れた路面ではバタつきが気になる場合もありますが、セッティングは適切と思われ、低中速のコーナーを自然なロールで抜けていくさまから、コーナーが多い道を適度なペースで運転し続けるのが楽しい車なのであろうことが容易に想像できます。

年式は1975年(S50)で、最終的には1981年(S56)年まで作られた車ですが、内外装の佇まい、走行フィーリング、種々のサウンドやノイズも含め、何とも1970年(S45)前後の車らしさが濃密に感じられます。
ただそれも手厚いメンテの賜物、程度の悪い車ではらしさ以前に痛みが気になるものですから、現役当時の感覚をそのまま味わえるという意味でも"良いなあ"と思える車ですね。

●● まとめ ●●

117クーペといえばハンドメイドを思い浮かべる方も多いですが、中期型の良さといいますか、ハンドメイドとは微妙に変わった部分がそこここにあるものの、それはハンドメイドとはまた違う、中期型ならではの美しさがあるとも言えます。

ハンドメイドよりやや端正になったフロントマスク、バンパー吊り下げ型のフロントウインカー、フェンダー埋め込み型のサイドウインカー、リアの一文字型コンビネーションランプなども、独自の美しさがあると思えます。

とはいえ気になるところもある、そこは変えたい・・・とオーナーさんが思った部分だけ手を加えて極力中期型の雰囲気をキープしたのがこのお車と言えるのではないでしょうか。
最高級グレードのXEをベースにミラーやシートを交換、カンパのホイールなどを奢り機械的コンディションもいいこのお車は、中期型好きな方にとってみればまさにお誂え向きな状態なのかもしれません。

オーナーさんはずっと乗り続けたいとおっしゃるほど気に入って乗られていますが、家庭環境の変化のため、売却を希望されています。

お車は、東京都北区にあります。

個人の為、消費税はかかりませんが、リサイクル料（6,430円）と月割りの自動車税のご負担をお願いいたします。